美輪明宏
「近代能楽集より
葵上あおいのうえ卒塔婆小町そとばこまち』」

天才が私に託した、「頼むよ」って伝言のような気がする

稽古場より

「卒塔婆小町」より。
「卒塔婆小町」より。

3月上旬の某日、稽古場では「卒塔婆小町」の冒頭シーンの稽古が行われていた。夜の公園で身を寄せ合う4組の男女。そこに美輪明宏演じる老女が姿を現し「ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅうたこかいな」と吸い殻を数え始める。木村彰吾演じる青年が老女を追いかけ、老女は青年が詩人であると見抜く。老女の不思議な語り口に青年は徐々に飲まれていき、夜の公園は過ぎし日の鹿鳴館へと変貌し……。

  • 稽古の様子。
  • 稽古の様子。
  • 稽古の様子。
  • 稽古の様子。

舞踏会に集まって来た、美しく着飾り美辞麗句を交わし合う男女を、青年は見たままに「すばらしい」と評し、老女は「俗悪」と断言する。「俗悪」という表現が説得力を持ち始めるのは、男たちが小町についてひそひそと噂話を始めたときだ。その美しさをただただ賞賛する者、高嶺の花として悔し紛れにわい談のネタにする者。小町の美貌と存在感が、男たちの語りによってどんどん高められていくシーンで、演出家・美輪の鋭い指示が飛ぶ。小町の美しさを語る俳優には「小町をちゃんと見て! 美しさに魂を抜かれてポーッとしている、そのことを自分の体で表現しないと」、“小町を落とせるヤツはいるか”と皆を煽る役の俳優には「卑わいなことを話している、いやらしさをもっと表現して!」と、短いセリフがポンポンとつながる3分程度のシーンではあるが、美輪はセリフ1つごとにシーンを止め、俳優たちに細かい指示を与えていく。美輪の的確、かつ鋭い演出になんとか食らい付こうとする俳優たち。同じシーンを何度も繰り返し、なんとかそのシーンがひと通り終わったところで、美輪は「三島戯曲は普通の戯曲のセリフと思ってはダメ。小さな中にもたくさんの要素が詰まっているから、ただそのままセリフを言うと失敗してしまうんです。でも今やったように言葉の1つひとつを読み解き、ちゃんと意味を押さえていけば、ガチッとハマってくるでしょう」と俳優たちに語りかけ、俳優たちは頷きながらその言葉を噛み締めていた。

演出をつける美輪明宏。

演出をつける美輪明宏。

休憩時間を挟んで、稽古は再び「卒塔婆小町」冒頭シーンへ。美輪演じる老女と木村演じる詩人の出会いの場面だ。生き生きと若々しい詩人と、すべてを達観した老女の落ち着きぶりは非常に対照的で、木村は多感でロマンチックな詩人を、よく通る声と長い手脚でダイナミックに表現。公園に集まる恋人たちからインスピレーションを受けた詩人が「恋人と二人でこれ(ベンチ)に腰かけると、地球の半分のあらゆる町の燈りが見えるんだ」と目を輝かせて手を広げると、確かにその指先から夜空が広がるような迫力があった。そんな木村に、美輪は立ち位置や仕草などの指示はするものの、基本的には役を任せているといった具合で、美輪の木村に対する信頼の厚さが垣間見えた。

稽古の様子。

稽古の様子。

その後も稽古中は雑談などが一切なく、高い集中力とほどよい緊張感で場が満たされていた。適度に挟まれる休憩時間には、美輪の指示で稽古場の扉が解放され、空気の入れ替えが行われる。冷たい外気と共に稽古場にパリッとした気合いが流れ込み、稽古はキビキビと進行していった。

なお本作で美輪は、主演・演出のほか美術も手がけている。稽古が始まる前に衣装スタッフが美輪のもとへやって来て、「冒頭で着る衣装の生地はどれにしましょう」と尋ねると、複数の生地サンプルの中から美輪は「これがいいんじゃない?」と、ある生地を一瞬で選択した。「この黒は舞台だと色が飛ぶのよね。それは重たいし……」と美輪が語ると、スタッフも「そうですね」と頷きながらメモを取る。続けて美輪が着る美しい純白のドレスについても、美輪はスタッフの意見を聞きながら、細かい飾りや裏生地の状態を確認した。その様子からも、美輪は演技のみならず、衣装やその他の要素についても、本作に確固たるイメージを持っていて、“総合演出”的な目線で本作を立ち上げようとしていることが伺えた。

稽古はいよいよ佳境へ。「近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』」の開幕はもう間もなくだ。

美輪明宏

美輪明宏

「近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』」
公演情報
  • 2017年3月26日(日)~4月16日(日)
    東京都 新国立劇場 中劇場
  • 2017年4月23日(日)
    宮城県 イズミティ21 大ホール
  • 2017年4月26日(水)
    静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
  • 2017年4月28日(金)
    愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2017年5月4日(木・祝)
    長野県 まつもと市民芸術館 主ホール
  • 2017年5月11日(木)
    福岡県 福岡市民会館
  • 2017年5月18日(木)~21日(日)
    大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
  • 2017年5月29日(月)・30日(火)
    神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール

作:三島由紀夫
演出・美術・主演:美輪明宏

キャスト

美輪明宏、木村彰吾 / 江上真悟、大野俊亮、小林永幸、真京孝行、大曽根徹、金井修、高田賢一、荻原謙太郎、長田拓郎、見雪太亮、城月美穂、高森由里子、小林佳織、迫水由季、越田樹麗、安達星来、今泉舞、志村ひかる、加茂智里

» 近代能楽集より 葵上・卒塔婆小町 | PARCO STAGE

プロフィール

美輪明宏(ミワアキヒロ)

小学校の頃から声楽を習い、国立音大付属高校を中退し16歳にしてプロの歌手として活動を始める。クラシック、シャンソン、タンゴ、ラテン、ジャズなど幅広い楽曲を得意とし、シャンソン喫茶・銀巴里のステージやテレビに出演。1957年には「メケ・メケ」(丸山明宏名義)が大ヒットし、その美貌と高い芸術的センスで世間に衝撃を与えた。また日本のシンガーソングライターの先駆けとして、「ヨイトマケの唄」をはじめ、日本人の心に染み入る多数の楽曲を生み出し、アルバムを多数リリース。2015年には10枚組のCDボックス「美輪明宏大全集」を発表し、注目を集めた。コンサート「美輪明宏/ロマンティック音楽会」では趣向を凝らした演出で、多彩な楽曲世界を表現している。
俳優としては、寺山修司の演劇実験室◎天井棧敷の旗揚げ公演「青森県のせむし男」「毛皮のマリー」に参加。その後、三島由紀夫の熱望で江戸川乱歩原作の「黒蜥蜴」に出演し、映画化もされるなど国内外で高い評価を得た。また、読売演劇大賞優秀男優賞を受賞したジャン・コクトー作「双頭の鷲」のエリザベート王妃役をはじめ、デュマ・フィス原作「椿姫」、エディット・ピアフの生涯を描いた「愛の讃歌」など、多数の当たり役を得る。1996年には、故・三島由紀夫が30年来熱望していた美輪演出・主演による「近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』」の上演が実現。徹底した美意識と耽美な世界観は多くの観客の心を打ち、上演を重ねている。
またベストセラー「紫の履歴書」「人生ノート」をはじめ著書も多く、2016年には最新作「心の嵐を青空に」を出版。映画やテレビ、ラジオでも活躍中で2012年大晦日にNHK「紅白歌合戦」に初出場し「ヨイトマケの唄」の名唱を披露した。
演技はもちろん演出・美術・照明・衣装・音楽と舞台の全要素を司る総合芸術家として、また時代を牽引するオピニンリーダーとして、ジャンルを超えて活動中。