音楽ナタリー Power Push - 山中さわお(the pillows)×登坂絵莉(リオ五輪レスリング女子金メダリスト)

山中さわお(the pillows)×登坂絵莉(リオ五輪レスリング女子金メダリスト)

金メダル獲得を支えた戦いの歌

the pillowsがニューアルバム「NOOK IN THE BRAIN」を3月8日にリリースする。前作「STROLL AND ROLL」から1年を待たずして届けられた本作からは、バンド結成28年、通算21作目のアルバムながら、まだまだ進化するバンドの勢いが感じられる。

音楽ナタリーでは本作のリリースに合わせ、the pillowsのフロントマン山中さわお(Vo, G)と、彼らの大ファンだというリオ五輪レスリング女子48kg級金メダリスト・登坂絵莉選手(東新住建レスリング部所属)の対談をセッティング。お互いの出会いや、山中が登坂の応援ソングとして書き下ろしたアルバム収録曲「BE WILD」にまつわるエピソードなどを語り合ううち、異なる世界で戦う2人の共通点も見えてきた。またページ後半には、新作やピロウズの現在に迫った山中の単独インタビューも掲載している。

取材・文 / 田山雄士
撮影 / 尾藤能暢

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the pillows「NOOK IN THE BRAIN」
2017年3月8日発売 / DELICIOUS LABEL
「NOOK IN THE BRAIN」初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD]
3780円 / QECD-90003
「NOOK IN THE BRAIN」通常盤
通常盤 [CD]
3240円 / QECD-10003
収録内容
CD収録曲
  1. Envy
  2. 王様になれ
  3. Hang a vulture!
  4. パーフェクト・アイディア
  5. Coooming sooon
  6. She looks like new-born baby
  7. pulse
  8. ジェラニエ
  9. BE WILD
  10. Where do I go?
初回限定盤DVD収録内容
  • Envy(Music Video)
  • 王様になれ(Music Video)
  • Hang a vulture!(Music Video)
山中さわお・登坂絵莉対談

「ピロウズだけは素晴らしかった」

──お二人が会うのは、今日で2回目ですか?

山中 そうだね。オリンピックの祝勝会以来。ただ、テレビでめっちゃ観るから、すごく知ってる人みたいな感じがする(笑)。

登坂 えー、ありがとうございます!

左から山中さわお、登坂絵莉。

左から山中さわお、登坂絵莉。

──まずは、登坂さんがピロウズを好きになったきっかけから聞かせてください。

登坂 高校2、3年くらいのとき、同期の栄希和さん(栄和人監督の娘)に教えてもらいました。彼女がピロウズさんのファンで、「すごくいいバンドがいる!」って。で、たまたま最初に聴かせてくれたのが「Funny Bunny」(1999年発表のアルバム「HAPPY BIVOUAC」収録曲)と「MY FOOT」(2006年発売のアルバム「MY FOOT」収録曲)。なんというか……驚くほどスーッと自分の中に入ってきたんですよね。そこからは、試合の前とかに聴くのが私のルーティンになって。

山中 希和さん、レコード会社のプロモーターよりも力強いよね。だって、誰にも頼まれてないのにさ、「聴いてほしい!」って言ってくれるなんて。ありがたいよ。俺のほうはスポーツ新聞で知ったわけ。登坂さんが「Funny Bunny」を好きっていう発言を、情報として目にした。だけどその経緯はわからなかったから「いろんなカッコいいバンドがいる中で、なんで(登坂さんの)お父さんとほぼ同年代のピロウズを聴いてるんだろう」と思ってて。それは祝勝会のときに聞いたの。そしたら「(最初は)オジさんだって知らなかった」って(笑)。純粋に音楽で好きになってくれたらしくて。

登坂 そう。曲で好きになったので、ビジュアルはあとからでした(笑)。希和さんはいつもいろんな音楽を薦めてくれるんだけど、なかなか私に合わなかったんですよ。でも、ピロウズさんだけはすごくダイレクトに響いて。「珍しく2人の息が合った!」みたいな。

山中 だから、太字にしてほしいのは「ピロウズ以外はパッとしなかったけど、ピロウズだけは素晴らしかった」ってこと!

登坂 あははは(笑)。だけど、本当にそうだったんですよ。

勝っても負けても泣くのが頷ける、ものすごく厳しい世界

──ピロウズのどんなところがフィットしたんでしょう?

登坂 えー、なんだろう……音の感じも好きなのですが、私は歌詞も気にするほうで。「Funny Bunny」の「キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ」という歌詞は、すぐにいいなって思いました。

山中 しかし「Funny Bunny」がこんなに支持されるとはね。当初はシングルのカップリングにひっそり入れようと思ってたくらいで、自分としては自慢のベスト10にも入らなかったんだよ。でも、今はライブで披露すると合唱が起きて、ステージに立っている人間としてわかりやすく一体感を感じられる。自分以上に大切にしてくれてる人がいる、宝物みたいな曲になったんだなって。

登坂 その次に「ストレンジ カメレオン」(1996年発売のシングル)が好きになりました。あ、でも「拍手は一人分でいいのさ」という歌詞は理解するのが難しかったりもしました。私はみんなに拍手してほしいと思うから、「これはどういう気持ちなんだろう」とか考えて。

左から山中さわお、登坂絵莉。

左から山中さわお、登坂絵莉。

山中 あの曲を書いたときはね、これ以上ないくらいまで落ち込んでた。まだ音楽業界にバブルの残り香があるような時代で、同期のMr.Childrenとかが爆発的にヒットしてる中、ピロウズはすごい低空飛行でさ。でも自分の音楽は好きで、それを続けたいと思ってたんだよね。なのに、周りの大人たちに二番煎じを要求されるんで、もう逆ギレで嫌味な曲を作ったみたいな。

登坂 そうだったんですね。

山中 ロックミュージックを作るうえで「万人にウケよう」ってのが最優先だと、たぶんあまりよくないんだよ。音楽には勝ち負けなんてなくて、個々の中でいいか悪いかが決まっていくだけだしね。その点、アスリートは勝ち負けがハッキリしてるじゃない? 「負けたけど、私のほうが優れている」なんてほぼない。やっぱり「勝った人が優れた人」ってことになるから。試合にたどり着くまでの道のりはとてつもなく長くて、その間ずっと自分を追い込んで。勝っても負けても泣くのが頷ける、ものすごく厳しい世界だなと思う。そういうのバンドにはないもん。もちろん音楽にも感動はあるけど、種類が違うかな。

登坂選手の「試合」プレイリスト

登坂 朝練に行くとき、カーオーディオは最初に必ず「MY FOOT」が流れるようにしてあるんです。背中を押してくれて、がんばろうって思えるから。

山中 おお。「MY FOOT」をアスリートが好きになってくれるのは、けっこう自然かもね。サビが「僕はまだ見てる 進む爪先を」っていうわかりやすい歌詞だし、そのあとも、えーと……。

登坂 「雨も水溜りも気にしないぜ」です!

山中 そうそう、ありがとう(笑)。

登坂 オリンピックの会場に行くまで15分くらいバスに乗るんですけど、その車中でもピロウズの曲をめっちゃ声に出して歌ってました。「試合」っていうプレイリストがあって。「Calvero」(2001年発売のアルバム「Smile」収録曲)になったら、歌えないからちょっと休んで(笑)。

山中 わはははは!(笑) なるほど、英詞だからね。

登坂 英語が難しいんですよ。「yeah, Calvero」しか歌えない(笑)。でも、気分は高まったままで! 英詞だと「Purple Apple」(2008年発売のアルバム「PIED PIPER」収録曲)はカラオケでかなり練習しました。

山中 へえー! うれしいな。

登坂 私、好きな曲を何回も聴いちゃうんですよね。「RUNNERS HIGH」(1999年発売のアルバム「RUNNERS HIGH」表題曲)とか、「プロポーズ」(2007年発売のアルバム「Wake up! Wake up! Wake up!」収録曲)とか。「プロポーズ」の歌詞も不思議で惹かれます。

左から山中さわお、登坂絵莉。

左から山中さわお、登坂絵莉。

山中 「ストレンジ カメレオン」は1行1行に意味を込めたタイプの曲なんだけど、「プロポーズ」はサウンド重視で言葉の気持ちよさを大事にしてるんだよね。例えば、一発ギャグをやるお笑い芸人さんに「あれ、なんで面白いんですか?」と聞いても答えようがないのと同じで、意味のないところがけっこうある。「おでこにファースト・タトゥー」って歌詞にしても「最初の刺青をおでこに入れるわけないだろ!」っていうね(笑)。「パイロットなのに高所恐怖症」とか、そういうバカバカしさ。世の中のいわゆるヒット曲って、主人公や背景をきっちり描いた説明的なのが多いじゃん。俺の音楽は聴いてくれた人の感覚に委ねて、それぞれ想像してもらえればいい。「この歌詞はなんなんだろう?」と思いつつ、別に答えが出てなくても登坂さんは好きって言ってくれてるでしょ?

登坂 はい! 考えてみても意味はわからなかったけど、なぜか好きなんです。

山中 それでいいよね。一番重要なのは、俺が自分の曲を好きなことだから。「プロポーズ」のような作り方をしても、やっぱり人間ね、思ってもいないこととか、嫌いな言葉は出てこないもんだよ。しかし「プロポーズ」や「Calvero」を挙げるということは、登坂さんはロックンロールが好きなのかもね。