映画「SING/シング」特集 蔦谷好位置×三間雅文

映画「SING/シング」特集
蔦谷好位置×三間雅文

夢のキャストが歌いつなぐ“動物音楽ドラマ”
工夫と愛に満ちた吹き替え版舞台裏

「ミニオンズ」「ペット」などで知られる「イルミネーション・エンターテインメント」の新作アニメ映画「SING/シング」が公開された。

今作は動物だけが暮らす世界で劇場支配人をしているコアラのバスターが、劇場再建のため世界最高の歌を求めてオーディションを開催する物語。劇中ではフランク・シナトラ、ビヨンセ、レディー・ガガ、きゃりーぱみゅぱみゅなど古今東西のアーティストたちの楽曲が随所で使用され、ストーリーを彩っている。

日本語吹き替え版では、演出を音響監督の三間雅文、音楽プロデュースを蔦谷好位置が担当。吹き替えキャストには内村光良、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジェル)、山寺宏一、坂本真綾、田中真弓、宮野真守、大地真央といったバラエティに富んだ面々が名を連ね、オリジナル版に負けぬ熱演および熱唱を繰り広げている。

音楽ナタリーでは、映画の日本公開を記念して蔦谷と三間の対談を企画。吹き替え版「SING/シング」が完成に至るまでの過程や苦労、そして日本人キャストたちの魅力を語り尽してもらった。

取材・文 / 大谷隆之
撮影 / 関口佳代

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映画「SING/シング」
2017年3月17日(金)全国ロードショー
「SING/シング」
解説
ストーリー

動物だけが暮らすどこか人間世界と似た世界──取り壊し寸前の劇場支配人バスター(コアラ)は、かつての栄光を取り戻すため世界最高の歌のオーディションを開催することに。主要候補は5名。極度のアガリ症のシャイなティーンエイジャーのミーナ(ゾウ)、ギャングファミリーを抜け出し歌手を夢見るジョニー(ゴリラ)、我が道を貫くパンクロックなティーンエイジャーのアッシュ(ヤマアラシ)、25匹の子ブタたちの育児に追われる主婦のロジータ(ブタ)、貪欲で高慢な自己チューのマイク(ハツカネズミ)、常にパーティ気分の陽気なグンター(ブタ)。人生を変えるチャンスをつかむため、彼らはオーディションに参加する!

スタッフ
  • 監督 / 脚本:ガース・ジェニングス
  • 製作:クリス・メレダンドリ、ジャネット・ヒーリー
  • 吹き替え版 / 演出:三間雅文
  • 日本語吹き替え版音楽プロデューサー:蔦谷好位置
  • 日本語歌詞監修:いしわたり淳治
キャスト

マシュー・マコノヒー / リース・ウィザースプーン / セス・マクファーレン / スカーレット・ヨハンソン / ジョン・C・ライリー / タロン・エガートン / トリー・ケリー / ジェニファー・ソーンダース / ジェニファー・ハドソン / ガース・ジェニングス / ピーター・セラフィーノウィッツ / ニック・クロール / ベック・ベネット

吹き替え版キャスト

内村光良 / MISIA / 長澤まさみ / 大橋卓弥(スキマスイッチ) / 斎藤司(トレンディエンジェル) / 山寺宏一 / 坂本真綾 / 田中真弓 / 宮野真守 / 谷山紀章 / 水樹奈々 / 大地真央

キャラクター紹介

バスター・ムーン ©Universal Studios.
バスター・ムーン
(吹き替えキャスト:内村光良)
客足が遠のき、倒産寸前のオンボロ劇場の支配人。愛する劇場を再生させようと心に決めている。ショーへの情熱と超楽観的思考で周りを巻き込み、墓穴を掘ることもしばしば。
ミーナ ©Universal Studios.
ミーナ
(吹き替えキャスト:MISIA)
内気で極度のあがり症なティーンエイジャーのゾウ。パワフルな歌声を内に秘めている。オーディションで失敗し、劇場のステージクルーとして働くことになるが……。
アッシュ ©Universal Studios.
アッシュ
(吹き替えキャスト:長澤まさみ)
失恋したてのヤマアラシで、パンクロックを愛する少女。ロックソングを書き下ろしたいと思っているが、ポップシンガーにしたいバスターと衝突する。
ジョニー ©Universal Studios.
ジョニー
(吹き替えキャスト:大橋卓弥[スキマスイッチ])
ロンドンの下町出身のゴリラ。美しい歌声と音楽への熱い情熱を持ち、シンガーになりたいと思っているが、ギャング集団のボスである父親に言い出せず、ひそかに歌唱コンテストに参加する。
グンター ©Universal Studios.
グンター
(吹き替えキャスト:斎藤司[トレンディエンジェル])
陽気なシンガー兼ダンサーのブタ。ペアを組むことになったロジータの歌の素質を即座に見出し、彼女の才能を引き出すことを自らの使命としている。
マイク ©Universal Studios.
マイク
(吹き替えキャスト:山寺宏一)
欲張りで自己中心的なジャズミュージシャンのネズミ。特技はフランク・シナトラのように歌うこと。お金、権力、そして派手なモノが大好物。
ロジータ ©Universal Studios.
ロジータ
(吹き替えキャスト:坂本真綾)
家事と25匹の子ブタたちの世話に追われる専業主婦。歌への熱い思いを胸に抱き、母親でも妻でもない“自分”を取り戻したいと思っている。
蔦谷好位置×三間雅文 対談

このキーを日本で歌いこなせるとしたら誰だろう?

──映画「SING/シング」で三間さんは日本語吹き替え版の演出を、蔦谷さんは音楽のプロデュースとアレンジをそれぞれ担当されています。最初にオリジナル版をご覧になった印象はいかがでした?

蔦谷好位置 いち観客として、シンプルに感動しました。まだ日本語の字幕が付いてない状態で観せていただいたので、細かいセリフのニュアンスまではわからなかったけれど。それでも十分に楽しめたし、作品のメッセージも伝わってきたので。

三間雅文 第一印象は、僕もまったく同じです。

蔦谷 あとはオリジナルの歌唱を聴きながら、「このキーを日本で歌いこなせるとしたら誰だろう」とか。頭の中でいろいろ想像しつつ楽しんでました。

三間 あ、じゃあ蔦谷さんは、最初からプロデュースする前提で観てたんだ。僕はなんのオファーもないまま、よくわからないまま試写室に連れていかれて「さあ、観てください」という感じだったんですよ(笑)。でも先入観ゼロで入れたのは、今思うと逆によかった。

映画「SING/シング」のワンシーン。©Universal Studios.

映画「SING/シング」のワンシーン。©Universal Studios.

──お二人はこれまで、一緒にお仕事をされたことは?

蔦谷 今回が初めて。そもそも僕は、これまでアーティストのプロデュースや楽曲提供がメインで、映画のお仕事はほとんど経験がなかった。なので「SING/シング」の吹き替え制作も本当に目新しいことばかりでしたから、大ベテランの三間さんとご一緒できてありがたかった。

三間 でも僕、30年以上アニメーションの現場で働いてきましたけど、吹き替えのお仕事はずっとお断りしてたんですよ。

蔦谷 え、そうなんですか?

三間 だって、すでに完成している世界に何かを足すって、メチャクチャ怖いじゃないですか(笑)。その作品が面白ければ面白いほど、近付きたくない気持ちが強くなる。

蔦谷 うーん、確かに考えちゃいますね。僕なんて怖いもの知らずというか、お話をいただいて「え、やりたい! やりたい!」って感じだったけど(笑)。でも三間さん、どうして今回は引き受けようって決めたんですか?

三間 信頼するプロデューサーさんから「三間もいい加減、新しい世界に踏み出さなきゃダメだよ」と背中を押していただいたのが大きかったですね。実際、今までにない経験がいろいろできて、結果的にはとっても感謝しています。あと、これは冗談じゃなくて、歌の部分の吹き替えを丸っと蔦谷さんにお任せできるという話だったので(笑)。

蔦谷 はははは(笑)。そうだったんだ。

三間 ええ。さまざまなヒット曲とストーリーとが見事に結び付いて展開していくのが、「SING/シング」というアニメーションの魅力ですけど、音楽の吹き替え作業は僕には手も足も出ないでしょ? そこはもう、すがるような気持ち。

蔦谷 まったく知りませんでした(笑)。でも、いいチームでしたよね。実は今回、セリフ部分の吹き替えと音楽制作は、まったく別々に進行していて。

三間 最初の顔合わせを除けば、現場で一緒になったのは1回くらいですもんね。

蔦谷 でも音楽チーム側も、三間さんが演出したお芝居の音源を聴いて想像を膨らませたことは多々あったし。一緒に1つの作品を作っている感覚は絶えずありました。

左から三間雅文、蔦谷好位置。

左から三間雅文、蔦谷好位置。

三間 完成後は作業終了後、そのままみんなで一緒に飲みにも行きましたしね。アニメーションって分業が基本なので、ああいう打ち上げってけっこう珍しいんですよ。それくらい、大変な仕事を一緒にやり遂げたって連帯感があった。

蔦谷 お互い、苦労しましたもんね(笑)。三間さんもおっしゃった通り、あれだけ完成度の高い作品に手を加えるわけですから、アメリカ本国チームからすれば「余計なことをして作品を壊さないで」って気持ち、当然あると思うんです。僕らが「日本のお客さんには絶対こっちのほうが伝わる」と判断しても、OKが出ないケースも少なくなかったし。

三間 その意味ではイルミネーション・エンターテインメントの人たちが作った世界観を尊重しつつ、いかにそれを超えるかを常に考えていた。その思いを吹き替えチーム全体で共有できたのが、よかったんだと思います。

キャラ立ちが素晴らしい動物ドラマ

──改めて「SING/シング」という作品の魅力はどこにあるんでしょう?

三間 ベタな言い方ですけど、やっぱりキャラ立ちの素晴らしさだと思います。みんな問題を抱えているんだけど、バスター・ムーンという調子のいいコアラと出会うことで、それぞれの人生がちゃんと希望のほうへ集約されていく。

蔦谷 そう。人間ドラマ……この場合、正確には動物ドラマかもしれないけど(笑)。ともかく群像劇として素敵なうえに、楽曲の当て方がものすごくうまいんですよ。全部で60曲以上の名曲やヒットソングが使われていますが、すべて意味を持っている。シチュエーションを端的に説明していたり、歌詞が登場人物たちの内面を代弁していたり……。

三間 セリフと楽曲が切り離せないくらい融合してますよね。あと感心したのは、展開のスピーディさ。例えば導入部で主要キャラクターを紹介していく際も、くどくど説明したりしないでしょう。これが下手な作り手だと、ゾウのミーナに「実は私、極度のあがり症で……」とか直接セリフで言わせちゃったりするんですけど……。

映画「SING/シング」のワンシーン。©Universal Studios.

映画「SING/シング」のワンシーン。©Universal Studios.

蔦谷 確かに、そういう基本設定の伝え方も洗練されてました。ちょっとした表情とか小道具、あとはそれこそ楽曲を使って、トントントーンと進んでいく感じ。

三間 それでも必要な情報は、しっかり伝わっています。最近、日本のアニメーションはちょっと説明過多というか、僕も含めて作り手の側が「もっとわかりやすくしなきゃ、観客に飽きられちゃう」と思い込んでしまってる気がする。そういう部分は勉強になったというか、ちょっと反省させられた部分もありました。